在宅ワークに集中したあと、音楽を聴いて癒されることはないですか?
年末には、紅白歌合戦やレコード大賞、FNS歌謡祭などの音楽番組を楽しむ人も多いと思います。
そんな中、絶滅危惧種となってきたのが、音楽番組での「生演奏」。
現在では、カラオケ音源が主流の中、それでも🔗「輝く!日本レコード大賞」や🔗「FNS歌謡祭」は一部の楽曲を除いて、今も生演奏にこだわり、壮大な音の力を届けてくれます。
視聴者にあまり気づかれることのない、でもそこにこだわりと熱意が垣間見える「生演奏」。今回は、そんな「生演奏の裏側」とその魅力についてお話ししたいと思います。

歌番組で生演奏が減ったのはなぜ?
転換時間の短縮と負担の軽減
今の音楽番組の多くは、カラオケ音源(カラオケボックスなどで流れる音ではなく、実際にレコーディングされた音源の、ボーカルがないバージョン)を使います。
また、舞台上では、本来楽曲ごとに必要な楽器の転換時間も必要なくなり、タイミングも安定し、リハーサルも簡単で、出演者の負担も軽くなります。技術的にも合理的です。
なお、「あて振り」という言葉を聞いたことはないでしょうか?これは、バンドの演奏などで、実際には事前に収録された音源やカラオケ音源を使用し、演奏しているように見せる方法のことを指します。これも、リハーサルやステージ転換をスムーズに行うための工夫として用いられることがあります。
【余談】生放送を救った実力― THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの”生演奏”
2003年6月27日放送の🔗「ミュージックステーション」で、出演予定だったt.A.T.uが突然登場しないというハプニングがありました。急遽、その日出演していた🔗THEE MICHELLE GUN ELEPHANTがもう1曲リハーサルなしの生演奏で番組をつなぎ、その見事な対応と圧巻のパフォーマンスに日本中が沸きました。カラオケなどの音源なしでもすぐできてしまう、生演奏ならではの柔軟さと実力が光った瞬間でした。

DTMの進化とともに”生演奏では再現困難”なサウンドが増えた
かつての楽曲のレコーディングは、各楽器の演奏者がスタジオに集まり、実際に演奏して録音するのが一般的でしたが、今ではアレンジャー(編曲者)がほとんどのパートをDTM(※)で作り、スタジオではギターやボーカルだけしか録音しない方法が主流となりました(ロックバンドなどの場合は、メンバー自身が楽器を演奏して録音するため、この限りではありません)。
その結果、パソコンでは可能でも、生演奏では再現しにくい音色や、複雑なリズムを持つ曲が増えています。

🔗NHK「のどじまん」も、初期のアコーディオン1本の伴奏から、地域バンドによる生演奏を経て、現在はカラオケ音源での歌唱に変化しました。これもまた、DTMの発展と、生バンドでは“再現困難な楽曲”の増加が背景にあると言われています。
<☝️DTMとは?>
デスクトップミュージックの略。パソコンを使って音楽を作ること全般を指します。
「生演奏」の知られざる舞台裏
生演奏は、時間・費用・手間がかかる
生演奏するということは、ハウスバンド(※)が演奏する場合は、各楽器の演奏者やアレンジャー(編曲者)などにギャランティが発生します。また、リハーサルの時間、リハーサルスタジオの確保、衣装代やメイクなど、費用や時間もかかることになります。
カラオケ音源でも済ませられるところを、生演奏にこだわる音楽番組には、番組制作陣の熱い思いが伝わってきます。
また、その生演奏の費用を削ることで、演出の費用へとまわして、演出でゴージャスに魅せる手法を取り入れることも増えています。
<☝️ハウスバンドとは?>
その番組内で、固定的にバック演奏を担当するバンド指します。「箱バン」などと呼ばれることもあります。

生演奏の「アレンジ」にかける情熱
これはなかなか語られることがありませんが、音楽番組での生演奏では、ロックバンドがそのバンドのみでそのまま演奏する場合を除き、ハウスバンドやオーケストラの編成に合わせて、楽曲ごとにアレンジを作り直す(譜面を作り直す)膨大な作業が行われます。演奏人数や楽曲数が増えるほど作業量も増え、緻密な調整が必要です。
それをおこなうのは、主に指揮者やアレンジャー、音楽監督。その人たちによって、原曲を参考に、テンポや楽器配置、リズムの強弱まで細かく設計された「音の設計図」(新たな譜面)が作られます。この音の職人たちのセンスと努力があってこそ、生演奏の華やかさが生まれるのです。
そう考えると、45分番組でも、毎週一部の曲を除き生演奏・生放送の🔗NHKの「うたコン」は、毎週その膨大な作業をこなしていることになり、「良い音を届けたい」という強い思いで番組を作っていることがよくわかります。本当に頭が下がる思いです。

日本レコード大賞、豪華な「オーケストラ演奏」も
TBSの年末恒例🔗「輝く!日本レコード大賞」では、カラオケ音源を使用して披露されることもありますが、一部楽曲ではドラムやギター、キーボード、ベースといったバンド演奏に加え、弦楽器や金管楽器、打楽器など多数の楽器で構成される「オーケストラ演奏」が披露されることもあります。その裏側はほとんど語られませんが、年末の1日だけの放送のために、数ヶ月前から膨大な準備が行われています。
そのおかげで、オーケストラならではのダイナミックで繊細な音の広がりの中で、アーティストは贅沢な空間で歌声を響かせることができ、視聴者もその壮大で圧倒的な演奏を楽しむことができるのです。
FNS歌謡祭では「武部聡志」さんが大活躍
🔗「FNS歌謡祭」や、🔗「MUSIC FAIR」などの、フジテレビの音楽番組の生演奏ハウスバンドは、主に音楽プロデューサーの🔗武部聡志さんと、武部さん率いる🔗ハーフトーンミュージック所属の凄腕ミュージシャンの皆さんが担っています。
武部聡志さんは、音楽プロデューサ・キーボーディストとして活躍し、1990年代のフジテレビ系🔗「LOVE LOVE あいしてる」にバックバンドとして出演したことをきっかけに、約20年にわたり、「FNS歌謡祭」の音楽監督を務めています。
FNS歌謡祭の工夫:ステージを2つ用意することも
ソロ歌手だけでなくロックバンドも出演することがある音楽番組。「FNS歌謡祭」では、出演バンドが自分たちで演奏する際、武部さん率いるハーフトーンミュージックのミュージシャンが演奏しない時間をカバーするため、ステージが2つ用意されています。これにより、楽器の入れ替えがスムーズにでき、野外音楽フェスのように効率よく進行できる工夫がされています。
生演奏が持つ“人の温度”
デジタルでは作れない“間”の美しさ
今やAIや打ち込み音源(DTM)で、どんな音でも再現できる時代ですが、デジタル音源のため、一定のテンポになります。しかし生演奏には、そこに独特の「間」や「揺らぎ」が生まれます。
演奏者は、歌い手の呼吸にあわせて演奏することができ、血の通った演奏を届けることができます。
音楽は“生きている”という実感
現在、ライブやコンサートでもマニピュレーター(※)が打ち込み音源を流す(同期を使う)ことがありますが、サポートミュージシャンをバックにした生演奏や、バンドの生演奏もまだまだ多いですよね?
生演奏なら、ミュージシャンが会場の雰囲気や歌い手のグルーヴに合わせて熱く演奏したり、場を盛り上げたりできます。音楽番組での生演奏も同じで、こうした生のグルーヴが視聴者にも伝わるのです。
<☝️マニピュレーターとは?>
ライブやコンサートの現場で、ライブの進行をみながら打ち込みの音源を流したり、バンドのサウンドに「打ち込み音」を足したりする人を指します。また、ライブやコンサートで、生演奏に別音源を足したり、別音源のみを流すとき「同期を使う」という言い方もします。
【まとめ】心に響く“生の音”を楽しもう
生演奏の音楽番組は少なくなってきましたが、それでも、各放送局ではこだわりの音楽番組が作られています。画面の裏では音の職人たちが丁寧に準備を重ね、ひとつの“生の音”を作り上げています。
年末の音楽番組では、そんな生演奏の魅力に触れるチャンスがあります。日本レコード大賞も、今年オーケストラ演奏で届けられるかはわかりませんが、もしそうであれば、それは現代では贅沢でとても貴重な体験です。画面には映らない制作陣の努力と魂の演奏が、きっと心に響くはずです。
在宅ワークで疲れた心を、壮大な生演奏で癒してみませんか?

<関連リンク>あわせて読みたい!「AIと推しトーク!」
<参考リンク>
- 『輝く!日本レコード大賞』公式ページ:🔗https://www.tbs.co.jp/recordaward/
- 『FNS歌謡祭』公式ページ:🔗https://www.fujitv.co.jp/FNS/
- ハーフトーンミュージック公式ページ:🔗https://www.htmg.com/



